飲食店の開業資金はいくら必要か
坪数別モデルケースで考える
開業資金は「厨房機器代」だけでは終わりません。実際には6つの費目に分かれ、最も金額が動くのは内装工事費です。同じ坪数でも、居抜きとスケルトンでは2倍以上の差がつきます。
全体像開業資金は6つの費目に分かれる
飲食店の開業資金は、次の6つに分けて積み上げると漏れがありません。カッコ内は、20坪・スケルトン物件で開業する場合のおおよその構成比です。
- 物件取得費(20〜30%):保証金(家賃の6〜10か月分)、礼金、仲介手数料、前家賃。契約時にまとめて必要になります。
- 内装工事費(30〜40%):最も大きく、最も変動する費目。スケルトンなら坪25〜40万円、居抜きなら坪10〜20万円が目安です。
- 厨房機器費(10〜20%):本体価格に加え、搬入・設置・接続工事費がかかります。
- 什器・備品費(5〜8%):客席のテーブルと椅子、食器、調理小物、レジ・POSなど。
- 看板・販促費(3〜6%):ファサード看板、メニュー表、Webサイト、グルメサイトの初期費用。
- 運転資金(15〜25%):家賃・人件費・仕入れの6か月分。開業直後の赤字を吸収するための資金です。
資金が足りないとき、多くの人がまず運転資金を削ります。ところが開業直後は売上が読めず、想定どおりに客足が伸びないことのほうが普通です。内装のグレードを一段落としてでも、運転資金は確保してください。
10坪・15坪・20坪・30坪坪数別のモデルケース
席数は1坪あたり1.5〜2.0席(滞在型の業態)で試算しています。回転型の業態ではこれより多く取れます。
| 店舗規模 | 席数の目安 | 厨房面積 の目安 | 内装工事 (居抜き) | 内装工事 (スケルトン) | 厨房機器 (中古〜新品) |
|---|---|---|---|---|---|
| 10坪 | 12〜18席 | 3〜4坪 | 100〜250万円 | 250〜400万円 | 60〜150万円 |
| 15坪 | 20〜28席 | 5〜6坪 | 150〜350万円 | 375〜600万円 | 90〜200万円 |
| 20坪 | 28〜38席 | 6〜8坪 | 200〜450万円 | 500〜800万円 | 120〜260万円 |
| 30坪 | 45〜55席 | 10〜12坪 | 300〜650万円 | 750〜1,200万円 | 180〜380万円 |
15坪・スケルトン・家賃25万円で試算すると
| 費目 | 金額 | 内訳 |
|---|---|---|
| 物件取得費 | 250万円 | 保証金8か月分200万円+仲介手数料25万円+前家賃25万円 |
| 内装工事費 | 450万円 | 坪30万円で算出。厨房の給排水・ガスの新設を含む |
| 厨房機器費 | 150万円 | 主要機器は新品、造作類は中古を併用 |
| 什器・備品費 | 60万円 | テーブル・椅子・食器・POSレジ |
| 看板・販促費 | 40万円 | ファサード看板、メニュー、Web、掲載費 |
| 運転資金 | 300万円 | 家賃・人件費・仕入れの約6か月分 |
| 合計 | 1,250万円 | 居抜き物件なら900万円前後まで下がります |
最大の分岐点居抜きとスケルトンの費用差
同じ15坪でも、居抜き物件なら内装工事は150〜350万円、スケルトンなら375〜600万円。この差が、開業資金全体を左右します。 ただし居抜きが常に得とは限りません。判断材料を整理します。
- 前の店と業態が近い厨房の配置や設備容量をそのまま活かせます
- 残置設備の状態が良い製造年が新しく、稼働確認が取れているか
- 造作譲渡料が妥当設備の入替費用より安いかを比較します
- 開業を急いでいる工事期間が1〜2か月短縮できます
- 前の店と業態が大きく違う結局すべて壊すなら、居抜きの利点は消えます
- 残置設備が古い製造10年超の機器は資産ではなく処分費です
- ダクトや給排水の位置が合わない移設費が新設費を上回ることがあります
- 内装で差別化したい既存の躯体から自由に設計できます
居抜き物件では、前の借主に造作譲渡料(数十万〜数百万円)を支払って設備を引き継ぎます。判断は単純で、「同じものを自分で揃えたらいくらか」と比べることです。譲渡対象の機器を型番で洗い出し、中古相場と照らし合わせてください。厨房機器の価格相場一覧が基準になります。
なぜ6か月分なのか運転資金の考え方
運転資金は「家賃・人件費・仕入れの6か月分」が目安とされます。根拠は、開業から売上が安定するまでに、おおむね3〜6か月かかるためです。 オープン直後はご祝儀需要で数字が出ても、そこから一度落ち込み、リピーターが積み上がって回復する、という推移をたどるのが一般的です。
月間の固定費を試算しておく
- 家賃:一般に月商の10%以内が健全とされます。家賃25万円なら、月商250万円が損益分岐の目安になります。
- 人件費:月商の25〜30%。オーナー1人+アルバイトの構成なら圧縮できます。
- 原価(食材費):月商の28〜35%。業態によって差があり、ドリンク比率が高い店ほど下がります。
- 水道光熱費:月商の5〜8%。厨房機器の構成、とくに加熱機器と冷凍冷蔵機器の台数で変わります。
機器選定は、開業資金だけでなく毎月の水道光熱費にも効いてきます。たとえば涼厨仕様のガス機器は本体価格が上がる一方、厨房内の温度上昇が抑えられ、空調負荷が下がります。数年単位で見ると差が出る部分です。
自己資金だけでは足りないとき資金調達の選択肢
| 調達方法 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 自己資金 | 金利負担がなく、返済義務もありません。融資審査でも重視されます。 | 開業資金総額の3分の1程度を自己資金で用意できると、融資の審査で説明がしやすくなります。 |
| 日本政策金融公庫 (新規開業資金など) |
創業期の融資として最も一般的な選択肢です。無担保・無保証人で利用できる制度もあります。 | 申込から着金まで1〜1.5か月かかります。事業計画書と自己資金の出所の説明が必要です。 |
| 制度融資 (自治体+信用保証協会+金融機関) |
自治体が利子や保証料の一部を補助する制度です。条件は自治体ごとに異なります。 | 関係先が多いぶん、公庫より時間がかかる傾向があります。早めの相談が必要です。 |
| 補助金・助成金 | 返済不要ですが、原則として後払い(精算払い)です。 | 先に自己資金や融資で支払う必要があり、開業時のキャッシュには使えません。公募期間と要件は年度で変わるため、必ず最新の公募要領を確認してください。 |
| リース | 厨房機器の初期費用を月額に振り替えられます。 | 支払総額は購入より大きくなり、原則として中途解約ができません。 |
融資制度の名称・金利・要件は改定されます。申込の際は必ず各機関の最新情報をご確認ください。
実際によくある資金計画の失敗パターン
- 物件を決めてから設備工事の見積を取った:三相200Vの引込がない、ダクトを外に出せないといった条件が後から判明し、数十万〜百万円の追加になります。契約前の確認が鉄則です。
- 厨房機器の本体価格だけで予算を組んだ:搬入・設置・接続工事で本体価格の2〜3割が上乗せされます。
- 造作譲渡料を精査せずに払った:引き継いだ機器が製造10年超で、開業半年後に入れ替えることになるケースがあります。
- 運転資金を内装費に回した:内装のグレードは後からでも上げられますが、資金が尽きた店は続けられません。
- 補助金を当てにして資金計画を組んだ:多くの補助金は後払いで、採択も保証されていません。
- 開業日を先に決めて逆算しなかった:融資の着金と機器の納期が間に合わず、家賃だけ払う期間が発生します。開業までのスケジュールで工程を確認してください。
厨房図面の作成依頼 / 厨房図面ラボ仮
内装工事費が膨らむ最大の原因は、途中で厨房の機器構成が変わることです。先にレイアウト図と設備総容量リストを固めておけば、給排水・ガス・電気の位置が決まり、工事の見積精度が上がります。相見積もりの土台としてもお使いいただけます。
- 厨房レイアウト図/機器を実寸配置し、通路幅と動線を確認
- 設備総容量リスト/ガス・電気の必要容量を機器ごとに集計
- 工事の要否判定/物件の容量で足りるか、引込工事が要るかを事前に把握
よくある質問
飲食店の開業資金はいくら必要ですか?
15坪・スケルトン物件・家賃25万円のモデルケースで約1,250万円が目安です。内訳は物件取得費250万円、内装工事費450万円、厨房機器費150万円、什器備品費60万円、看板販促費40万円、運転資金300万円。居抜き物件なら900万円前後まで下がります。
自己資金はいくら用意すればよいですか?
開業資金総額の3分の1程度が一つの目安です。融資の審査では自己資金の額と、その出所(通帳の履歴)が確認されます。計画的に貯めてきた実績があるかどうかが見られます。
開業資金を抑えるにはどこを削ればよいですか?
優先度が高いのは、居抜き物件の活用と、造作類(シンク・作業台・棚)を中古で揃えることです。逆に運転資金と、故障すると営業が止まる機器(製氷機・食器洗浄機・冷凍冷蔵庫)の品質は削らないことをおすすめします。
補助金は開業資金に使えますか?
多くの補助金は精算払い、つまり先に自分で支払ってから後日交付される仕組みです。開業時に手元で必要な資金としては当てにできません。また採択が保証されているものでもないため、資金計画は補助金なしで成立するように組んでください。
さらに詳しい質問と回答は よくある質問ページ にまとめています。
まとめこの記事の要点
- 開業資金は6費目(物件取得費・内装工事費・厨房機器費・什器備品費・販促費・運転資金)に分けて積み上げると漏れがない。
- 15坪・スケルトンで約1,250万円、居抜きなら900万円前後が目安。最大の分岐は居抜きかスケルトンか。
- ただし居抜きが常に得とは限らない。造作譲渡料の中身と、残置設備が実際に使えるかを見極める。
- 運転資金6か月分は削らない。売上が安定するまで3〜6か月かかるのが前提。
- 削るなら厨房機器費。新品と中古の使い分けで、同じ構成でも数十万円単位で動く。
開業資金でいちばん多い失敗は、内装に予算を寄せすぎて運転資金が薄いままオープンすることです。6費目のうち事前に精度を上げやすいのは厨房機器費なので、まずそこを確定させて、浮いた分を運転資金へ回してください。
開業準備の関連ページ
同じ「先に知っておきたいこと」シリーズの記事です。
- 厨房機器の価格相場一覧主要12品目の新品定価と中古相場、本体以外にかかる費用まで。
- 必要な資格・届出食品衛生責任者から深夜酒類提供の届出まで、窓口と期限つきで。
- 開業までのスケジュール6か月逆算のやることリストと、遅れが出やすい3つの工程。
- 保健所の施設基準営業許可の検査で指摘されやすい8項目と、事前相談の進め方。
- 中古厨房機器の選び分け中古で問題にならない機器と、慎重に選びたい機器の判断軸。
- 厨房レイアウトと通路幅4つの型、通路幅の基準、ワンウェイ動線の考え方。
- 電気・ガス・給排水の容量物件契約の前に確認したい4項目と、内見チェックリスト。
- 厨房機器の用語集見積書と図面に出てくる専門用語を、実務目線で解説。